禹歩は、古代中国の禹王が大地を歩んだという神話に由来する呪術的歩行法。日本では陰陽師が行事の前に大地の悪霊を踏み鎮める「反閇」として伝わり、道教・修験道・陰陽道に共通する「歩く祈り」の原型です。旅立ち・引越し・大勝負の朝に、自分で行える作法を図解します。
陰陽師は、天皇の行幸や大事な儀式の前に、特別な足取りで大地を踏み、その場の悪しき気を鎮めてから事を始めました。これが反閇(へんばい)です。左足から踏み出し、北斗七星の形を足で描く歩き方が基本で、九宮(後天定位盤の九つの宮)の順に歩む形式もあります。
その源流である禹歩(うほ)は、治水の聖王・禹が中国全土を歩いて川を治めたという伝説に基づきます。相撲の四股(しこ)や、能・狂言の足拍子、神社の反閇神事などにその名残があると言われます。
古代中国では、すべての星が北極星を中心に巡ることから、北辰(北極星)と北斗七星は宇宙の中心・天帝の象徴とされました。北斗信仰では、人は生まれ年の干支によって七星のいずれかに属し、延命長生を祈願します。その天の柄杓を大地に足で描くことで、天地を結び、その場を清めるのです。
もっとも簡単な禹歩です。足を引きずるように、三歩で九つの足跡を残すつもりでゆっくり進みます。
北に向かって立ち、両手を腰に。息を三度深く吐き、「身固め」として肩・腰・膝を軽く叩いて気を通します。
左足から、貪狼星(どんろう)・巨門星(こもん)・禄存星(ろくそん)・文曲星(もんごく)の四星を、上のシミュレーターの順に一歩ずつ踏みます。一歩ごとに星の名を心中で唱えます。
廉貞星(れんじょう)・武曲星(むこく)・破軍星(はぐん)へ。最後の破軍星は「一切の障りを破る」星。最後の一歩はやや強く、大地を踏み鎮めるように。
七歩を踏み終えたら合掌し、「急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)」と三度唱えます。漢代の公文書の結句「律令の如く速やかに成せ」に由来する、陰陽道の常用呪文です。
特に大切な日は、反閇のあとに九字切り(臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前)を行うと、祓いと鎮めが揃い、作法として完成します。
禹歩・反閇は「まじない」であると同時に、深呼吸と正しい姿勢で心身を整える所作でもあります。効果を保証するものではなく、伝統文化としての実践をお楽しみください。体調や周囲の安全に配慮し、無理のない範囲で行いましょう。